古代人類は火を使用したことと、文字を発明したことによって大きく進歩したと言われます。文字を持った人類はそれを書き記すものとして紙を発展させました。また紙の用途は書写だけにとどまらず、素材としてさまざまなものに使用されるようになりました。紙は人類の文化と共に発展してきたと言っても決して過言ではないのです。紙の使用量が文化のバロメーターと言われるのもこういった理由からでした。
さて、和紙の原料は楮(こうぞ)をはじめ三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)など、やはり同じ樹木なのですが、これらは木を伐った後に芽が出てきます。和紙の主原料であるコウゾを例にとって説明しますと、楮はクワ科の植物で毎年冬に木を伐って製紙原料とするのですが、伐った後から芽が出始め、それも一カ所から数本の芽が出ることも珍しくなく、夏には青々とした葉が生い茂ります。これを冬に再び伐って製紙原料とするわけです。こうして楮は枯れることなく毎年収穫され、しかも年々株も太ってゆきます。ジンチョウゲ科に属する三椏は製紙原料とするには三年待たねばなりませんが、同じように伐った後から芽が出てきます。このように木を伐っても決して環境破壊とはならない点が地球に優しいと言われるゆえんなのです。
今後さらに和紙の需要が伸び、これら和紙原料の栽培が推進されることによって、現状を維持するだけの環境保護に甘んじるのでなく、緑豊かな環境を自らの手でつくることもできるのです。
そしてまた、この和紙原料は中山間植物です。今山村農家の過疎により作られる作物もないままに放置された土地は少なくありません。土は人類に恵みを与えてくれます。人はその土で作物を作ることによって恩返しをせねばなりません。今放置された土地は泣いています。これらの上地に和紙原料が栽培され、新しい和紙文化が再び確立されんことを願ってやみません。
※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p64-65
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