一般的には日本国内での使い方と大きな違いはありませんが、ほとんどの和紙はアートペーパー(美術紙)と呼ばれ、多量に消費される用途としては印刷であります。その種類は石版、銅版、木版、シルクスクリーンおよび活版等であって、オフセット印刷には稀にしか使われておりません。その理由として、手漉き和紙は四方に独特な不規則な耳があり色重ねが正確にできないこと、薄い紙は空気が抜けて自動給紙機に適応しにくいこと、繊維が長いので表面にピッキング現象(繊維の毛羽立ち)を起こしやすいなどの理由によるものであります。
印刷の方法に応じてあらかじめ紙料にサイズ(にじみ止め)剤を混ぜたり、後加工で礬水(どうさ)引きをしたり、一枚の紙が多様な用途に使われその目的を果たしております。
その他の用途をあげてみましょう。
*クリスマスカードに代表される各種カード *便せん・封筒 *ランプシェード *コラージュ *ブックバインディング *結婚式・パーティ等の招待状・案内状 *印画紙 *書道・カリグラフィ・墨絵 *折紙 *化粧箱貼り、内装、宝石類の包装、ラッピング *写真・絵画の額装の縁どり *絵画・古文書の修復 *障子 *装飾
など枚挙にいとまがないほどです。
欧米では個人的な限定出版や結婚式・各種パーティの紹介状等も、ほかにない独創的に富んだ本の装丁やカードとして、豊富な種類から、美しく丈夫な特性を上手に生かして和紙が好んで使われています。また近年の傾向としてパソコンの普及によるレーザープリント用紙としての需要が急速に増加しています。昔は土佐典具帳紙(じょうし)および雁皮紙がタイプ原紙、謄写版原紙として、現状からは想像もできないほどの多量が生産・出荷されておりましたが、複写機が普及した現在はこの需要は皆無となり、その当時は存在しなかった複写機・レーザープリンターを使った新たな和紙の需要が生まれております。
和紙を素材として使うアーティストはプロの方たちばかりでなくアマチュアの方が非常に多く、そのため販売する側も和紙に対する知識が要求されております。彼らは個々の紙についてその原料構成や特質、印刷適性に加えPH(ペーハー)値に至るまで調べ、アーティストの用途・要求に適合する紙を提供しています。
また洋の東西を問わず世界の美術館、博物館、図書館における絵画、古文書の保存・修復に中性の上質和紙は欠かせません。その意味からも伝統を守り丁寧に一枚一枚いい紙を漉いている製紙家の方々が安心していつまでも仕事を続けられる環境を育てなければならないと思います。
(森木伸二)
※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p150-151
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