今こそ後継者育成の重要性が問われています。

 

かつて日本で便われた紙はすべてが手漉き和紙でしたが、明治期に洋紙が輸入され、さらに日本においても洋紙が製造されるようになって紙の需要は大きく変わってゆきました。このことは国の政策面においても顕著に現われています。日本に郵便制度が導入された時の切手用紙は手漉き和紙だったのですが、わずか三年で洋紙にとって代わられています。学校の教科書の紙もしかりです。こうしてどんどんと和紙から洋紙へと需要が移っていったのです。


今皆さんの周りを見回わした時、果たして和紙はどれだけあるでしょうか。家庭においてはそれでも障子紙、襖紙等見かけることもあるでしょうが、学校やオフィスではほとんどないのではないでしょうか。障子紙にしましても、合理性の追求から一見和紙風で、その本質を無視したものも少なくありません。外光を優しくさえぎり、外の空気、湿度を適度に室内に取り入れるといった障子紙の機能は持っていないのです。こういった和紙の持つ心が忘れられていったと言えるのではないでしょうか。


しかしいくら洋紙が普及したとはいえ、和紙でなくてはならないものは少なくなく、和紙産業はやはり大きな産業だったのですが、ここに登場したのが機械すき和紙でした。これによって最も大きな痛手を受けたのが手漉きの産業用和紙でした。産業用和紙とは、大量生産、安価、均一性が要求される紙で、それらは機械の最も得意とするところだったのです。


こうして紙の舞台は和紙から洋紙へ、さらに和紙の舞台においても手漉きから機械すきにその主役は変わっていったのです。


今手漉き和紙は年々減少の一途をたどっており、要求されている和紙全体の需要の何分の一かを満たすことができるに過ぎません。手漉き和紙で満たすことのできない残りの需要は機械すき和紙が対応してくれているのです。そうして日本の和紙文化は成り立っているのです。まさに手漉き和紙と機械すき和紙の共存共栄の時代だといえましょう。


さて、それでは手漉き和紙の需要はそれほど少ないのかと言えば、そうではないのです。もちろん生産が減ったことはありますが、供給が需要に追いつかないのが現状です。その理由は後継者不足にあります。この後継者対策こそ今の手漉き和紙業界にとって最大の問題点です。


和紙という文化性の高い物をつくる、自分の漉いた紙がずっと後世にまで残る、今の世の中で本物の価値観に基づいた自信も誇りも持てる、そんな手漉き和紙なのになぜ後継者が育たないのでしょうか。一つには受け入れ態勢ができていない点が上げられます。紙漉きは技術職です。まずその技術を教える公機開がありません。そのため新しく技術を習得するとなると、個人の事業所で受け入れて教えなければなりません。しかしそれが可能な事業所は全国でもごくわずかしかないのです。全国の多くの紙漉きは家内工業です。それも夫婦二人というところが大半なのです。それでは後継者に技術を教えることはおろか受け入れることすらできません。また仮に受け入れて技術を教えることができたとしても、その後継者が技術を習得するまでの期間の生活費をどうするかという現実の問題がでてきます。


昨今、手漉き和紙に価値を見いだして、自分の一生の仕事としてこの道を志す若者が増えてきたように思います。彼らをいかにして育て上げ、そして旅立たせるかは今後私たちに課せられた重大な使命ではないでしょうか。

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p62-63

TOP 全国産地マップ 和紙と和紙の製品をさがす 産地の情報とインフォメーション 和紙について知りたい 全国手すき和紙連合会の出版物 全国手すき和紙連合会とは