日本人は“木と紙の文化”とよばれる独特のライフスタイルを長らく続けてまいりました。実際、衣食住の食物以外のほとんどすべてを、紙でまかなうこともできたのです。ここ五〇年、急速な西欧化で、生活様式はすっかり様変わりしてしまいましたが、長年にわたって培われてきた人々の
和紙への愛着は、まだまだ暮らしの中に受け継がれております。
こうした欲求に応える新しいデザインの試みも次第に増えてまいりました。現代のライフスタイルでは生活必需品としてではなく、視覚や触覚によりアピールする美的機能を重視する傾向にあります。
生活行為の中で、〈装う/飾る/贈る〉の三つは特に美的効果が求められるところです。こうした行為の生起するシーンでは、和紙は独特の効果を発揮いたします。本稿ではこの三つのシーンでの和
紙の生かし方を検討いたします。
軽さ、触感のよさ、可飾性の高さなど、身につける素材としての和紙の可能性は未開発といってよいでしょう。単体としてのアクセサリーや、帽子等一部成功例はありますが、まだまだもの珍しさだけが先行し、実用面ではこれからの分野です。アトピー性皮膚炎に有効という視点からヨーロッパの化学メーカーが興味を示しているというニュースもあり、今日の紙衣、紙布を生み出すことも夢ではありません。
インテリアの構成材を壁材、天井材、床材と分けると、和紙はそのいずれにも対応できます。床材は韓国のオンドル紙に尽きますが、日本でも油団(ゆとん)が挙げられます。安価なカーペットや畳にはとても及びませんが、座ぶとんカバーなどでまだ少しは使われています。
温度、湿度の変化の激しい日本で快適な生活を送るには、障子はたいへん有効です。壁材としては土や砂を塗るよりもはるかに簡単です。現在では洋風のビルや海外でもガラス窓と併用される例が増えてきました。
ビニールクロスが主流だった壁材も和紙が少しずつ使われ始めています。現在はビニールクロスの施工方法と規格に合わせた和紙のクロスが開発されています。扱いやすさはありますが和紙本来の持っている通気性、触感が犠牲にされているものが多いのは残念です。工業製品にはない生きた素材としての個別性を生かすには、規格の再検討、それに見合った手作業や手加工が不可欠です。古くからあった従来の施工法や職人芸から、和紙を扱う今のノウハウを再構築する必要があると考えます。
商店建築では和紙をメインにしたさまざまなデザインが盛んですが、こうしたハレの場だけでなく、個人住宅にあたりまえの素材として再び組み入れることが究極の目標といえましょう。余暇活動の大型ホビークラフトとして、壁、天井の貼り換えを普及することはできないでしょうか。
照明は単体として独立するため、とり入れられやすいでしょう。イサム・ノグチの完璧なデザインに及ぶものはまだありませんが、新しい試みも盛んで、そうした中から、世界に通用する“日本のあかり”と誇れるものが、生まれることを期待しています。
=贈=
贈答に関しては独特の“かた”を受け継いでいますが、こうした伝統的な“かた”は今日かえって新鮮に見えるほどです。こうした“かた”に和紙は不可欠な素材ですが、日常的なプレゼントにも特別な気持を表わすために、和紙のラッピングは有効です。かつて日本人が生活に折り目をつけ心新たになるために和紙を駆使した心象風景が、今日の贈答にまつわるさまざまなグッズにも生かされているようです。
(伊部京子)
※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p130-131 全国手すき和紙連合会発行
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