障子の特徴は、機能性と意匠性にわけて捉えることができます。
障子紙は、直射光線をさえぎりますが、光量の半分くらいは透過し、障子紙を透過した光線はガラスなどとは異なり、拡散して室内全般を明るく柔らかな雰囲気につつみます。ガラス窓よりも光を部屋の奥深くまで到達させます。ガラス窓のみでは、窓側のみがきわめて明るく、それに比べて部屋の奥は極端に薄暗くなり明暗のコントラストが生じてしまいます。
障子紙は自然素材の繊維のからみででき上がったもめですから、室内の乾湿の調整作用をもち、室内外の空気の対流に対しても、フィルターの役目を果たして、空気の清浄化に寄与しています。
また、障子紙は紙一枚ですので、寒気を通しやすいと思われがちですが、カーテンに比べますと、カーテンは密閉性がなく、建具としての障子のほうが室内の保温効果が上がります。ガラスのサッシ戸の内側に障子を入れますと、二重構造で、冷暖房効果を高め、冷暖房コストを節約します。また、ガラスのサッシ戸との二重構造により、室内外の防音効果を発揮します。
以上が、障子という伝統的な建具のもつ機能性ですが、その機能の主役は、そこに張られた一枚の障子紙の力であります。障子の木枠(框[かまち]と桟[さん]と腰板など)は、一枚の障子紙を支える脇役と考えることもできます。
次に、障子の意匠性について申し上げます。
和紙と桟から構成される障子の意匠は、きわめてシンプルでモダンです。
かつては、手漉き障子紙の小判の寸法に合わせて、地域ごとに、横桟の上下の間隔は約二五〜二八センチに制約をうけておりましたが、機械すき長尺障子紙が市場に現われ、また手漉き障子紙の寸法も、二三判が漉かれるようになりますと、障子の桟のデザインも自由になり、腰板のない水腰障子、また障子紙の小判
の寸法の影響を受けない荒組み障子などが出現し、障子の桟のデザインはますます自由に構成されています。
障子の意匠性の二つの要素のうちのもう一方、障子紙についてはどのような変遷がみられたでしょうか。
それは、手漉きの障子紙の衰退と、機械すき障子紙の普及です。
かつて障子という建具は、室内と室外を紙一枚で間仕切る建具でした。外から受ける、雨や風をたった一枚の障子紙で防いでいました。障子の外側に舞良戸という板戸がつけられ、また縁側の外側に雨戸という板戸がつけられて、明かり障子を、風雨から守ってきましたが、それでも採光のため、昼間は舞良戸[まいらど]や雨戸は明け放たれ、障子紙一枚で風雨に耐え続けました。そこには、強靭な手漉きの楮の障子紙が是非とも必要とされました。
宮尾登美子さんの書かれた文章に、高知県でかつて漉かれていた狩山[かりやま]の障子紙に、高知市の町の人々がどれほど強い信頼を寄せていたかについて述べられた一節を、思い出します。しかし、狩山の障子紙は今漉かれていません。ガラスのサッシ戸の普及が、手漉きの強靭な障子紙を必要としなくなり、ガラス戸の内側の建具と化した現在の明かり障子には、機械すきの障子紙でその機能が間に合うからだと思われます。
しかし、手漉きの楷の障子紙は、その美しさにおいても、その強さにおいても、機械すき障子紙の追随を許さない魅力があります。その魅力を、建築の設計や、インテリアのデザインに従事する人々にアピールすることが何より人事です。手漉きの障子紙を漉く人、その紙を商う人、力を合わせて、この地道な普及活動に励むことを私は強く期待します。
※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p134-135 全国手すき和紙連合会発行
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