機械すき和紙とはどの紙まで入るか,といった定義はありません。すく機械の種類,粘剤の使用の有無,紙の厚さ,原料の種類によって考えても,なかなか定義はできません。いちばん適当なのは原料面で,コウゾ,ミツマタ,ガンピ,マニラアサ,アマなどの,非木材繊維を主原料とした紙を和紙と考え,かつ日本でつくられるという前提を置くことだと思います。
明治初期に紙か連続してできる抄紙機が導入され,洋紙という言葉ができ,その後従来の和紙のような薄くて風合いの似た紙を円網抄紙機や短網抄紙機ですき姶め,手すき和紙と洋紙との中間的な紙,やや手漉き和紙寄りの紙が機械すき和紙といえます。その一つの例として,以前は統計上も手漉きの塵紙(ちりかみ)の分野であった紙を機械ですいた,京花紙,トイレットペーパー,ちり紙は機械すき和紙に入っていました。昭和三〇年代にはいちばん難しいといわれた楮紙も機械で製造できる懸垂式短網抄紙機が発明され,より手漉き和紙に似た機械すき和紙ができるようになりました。
ここでは原料をコウゾとし,標準的な現在の生産工程を比較したいと思います。
1 原料
手漉き和紙も機械すき和紙もほとんど同じですが,機械のほうが安価を・要求されるため,輸入のタイ産コウゾを使用する場合が多いようです。
2 煮熟
両方とも同じ薬品を使い,平釜で行なう場合か多いのですか,機械のほうが黒コウゾを苛性ソーダで煮熱する比率が高い。
3 煮熟
手漉きでは天日晒(ざら)し,雪晒しを行なっている埴合も見受けられますが,橋械すきでは晒し液による漂白,晒し液と,一酸化塩素の二段漂白などで行なっています。
4 除塵
コウゾの場合機械的に除塵する技術は確立していないので,両者とも手作業による除塵が行なわれています。平均的には単位量当たり手漉きのほうが人手を多くかけ、丁寧に除塵しています。
5 打解・離解
機械すきでも手漉きと同様,打解機で打解し,なぎなたビーターで離解(解繊)している工場もありますが,一般的には打解工程を省いて,そのままホーレンダー・ビーターで離解している工場も多く見受けられます。この方法は手漉き工房にも見受けられます。一方手漉きでは板や石盤の上で人力による木打ちで打解する方法も一部では行なわれています。
6 抄紙
機械すきでは離解した原料の中に十分な粘剤を入れ,結束繊維を最小限にし,バスケットチェストから一定量汲み出して白水で薄めた後,スクリーンで結束繊維を溜め、移動する金網の上で脱水します。一方手漉き和紙は,漉舟の中で原料を薄めて,一枚一枚漉き上げます。
手漉き和紙と機械すき和紙の大きな違いは二点上げられます。一点目は手漉きの流し漉き技法か紙料を含んだ水を汲み込んで捨てるという作業を繰り返して紙にするのに対し、機械すきは汲み込んだ紙料かすべて紙になるという点です。二点目は手漉きはその簀桁の大きさの紙しかできないのに対し,
機械すきはヱンドレスの紙ができる点です。
7 乾燥
機械すきでは金網ですかれた湿紙はフェルトで移動させて,プレスロールで水を圧搾し,低い温度のドライヤーで乾燥します。いっぽう手漉きは湿紙を積み重ねて紙床をつぐり,ゆっくり圧搾して脱水後,板による天日乾燥や室乾燥,鉄板を用いた蒸気乾燥などで乾燥します。
8 両者の比較・特徴
前述のように,機械すき和紙は同じ原料で,同じ煮熟薬品を使用し,同じ原料処理をしたとしても,すく時の効率が良く,大量に安くできます。
しかし,機械すき和紙は圧搾を連続的にプレスロールで行なうため,コウゾ一OOパーセントで厚くすいた時は密度か高くなり,手漉き和紙のように嵩高(かさだか)のふっくらした紙になりません。
用途に応じて,手漉き和紙と機械すき和紙を使い分けることが大事です。
※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p52-53 全国手すき和紙連合会発行
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