日本人はまだまだ和紙の特性を生かしきっていません。

 洋紙に刷る印刷機が高速化され、印刷に時間のかかる和紙が敬遠されていますが、まだまだ可能性を追求できる素材です。

 印刷には、グラビア、凸版、オフセット、スクリーンの方式があります。内容によっても違ってきますが、和紙には、オフセット印刷が他の方式より向いています。製版が容易で、写真文字の再現性が優れています。写真製版の網点が、和紙の繊維に付着し、立体感を表わし濃淡のある印刷が刷り上がります。

 特に機械すき和紙の印刷は、洋紙と同じように扱えるものがあります。いっぽうで手漉き和紙は、今のところ手ざし印刷機で刷ります。自動給紙機が改善されれば、機械すき和紙と同じように扱えます。紙粉・毛羽立ちの紙もありますが、そうでない紙もありますから選べばよいことです。

 心の安らぎを求める現代社会に、和紙のもつ、暖かさ、柔らかさ、しなやかさが生活に生かされたら、まちがいなく潤いと豊かさのある生活を享受できるのに、日本人は和紙の特性を生かしきっていません。

 印刷の世界では、そのことが特に言えます。一五〇年前の江戸時代に世界にさきがけ多色印刷の技術を私たちの祖先は開発していました。木版印刷で刷られた浮世絵・草紙などの多色刷りで、庶民は生活を楽しみ、美意識を育てました。これが江戸文化の開花に役立ち、やがて海外にも影響を及ぼしました。当時のこの木版印刷の技術の伝統が、日本の高い印刷技術の背景になって現代に生きているのです。

 しかし現代の印刷は、インキ、機械等すべて洋紙を前提にされていますから、和紙印刷にはハンデがあります。それは乗りこえられないことはありません。たとえば門出和紙の小林康生氏の経験(清酒久保田のラベル)が挙げられます。

 清酒久保田はうまい酒で売れていますが、中身だけでなく耳付きのシンプルなラベルも、いかにも日本酒の感じを与え好評です。この耳付きのラベルは誕生するまでに、二度の危機がありました。
 一回目はラベルにカビが生え、問屋さんから苦情がきた時です。久保田の社長は苦情を受けても動ぜず「紙が生きている証拠、保管に注意してください」とはねかえしたのです。
 二回目の危機、ラベルが「自動で貼れない」と言われた時も、久保田の社長は、ビン屋さんに貼れるように改善を求めました。
 和紙だからとあきらめずに、使う人、加工する人、漉く人の努力が、今日大量の耳付きラベルの生産につながったのです。

 和紙は古くからその時々の生活様式の変化に対応し、いろいろな加工技術を受け入れる柔軟な特性をもっているから長い歴史を生き抜いてきたのです。特に美しいもの、格調あるものを表現する時、一段と格の高い感性豊かな表現をいたします。

 世界の人々から最も優れた紙と評価されている和紙に、ポスター、ちらし、書籍等が印刷されたならば、殺伐とした生活に、色彩豊かな詩情あふれる刷り物を提供することになるでしょう。

             

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p116-117 全国手すき和紙連合会発行

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