紙を透かした時に見える文様なので「透かし模様」、あるいは単に「透かし」といいます。紙の薄い部分が明るく、厚い部分が暗く見えるのです。薄い部分だけで模様をつくっているものを「白透かし」、厚い部分・薄い部分を利用して模様をつくっているものを「黒透かし」といいます。
日本銀行で発行している千円札や一万円札には、「黒透かし」が使われています。法律によって、「黒透かし」は、特別の許可がない限り使ってはいけないことになっていますので、普通の使箇や本の用紙に使われている透かし模様はすべて「白透かし」です。
模様としての透かしは、ヨーロッパで十二世紀に始まったとされていますが、日本でも、江戸時代の藩札に透かしが使われている例があります。
簀の上に模様の形に曲げた針金などを置いて紙を漉くと、針金の部分は紙が薄くなるので、光にかざして見ると地の部分より明るく白く見えます。それが「白透かし」です。
手漉き和紙では、針金のような硬いものは使うことができないので、渋紙を模様の通りに切って簀に縫いつけます。手漉き和紙には、簑をつくっているひごや、ひごを編んでいる編み糸の跡が白く見えますが、それらは、ひご目・糸目と呼んで、透かしとはいいません。しかし、原理的には、「白透かし」の一種といえます。
「黒透かし」を作るには、目の細かい金網に凹凸をつけて簀の代わりに使い、紙を漉きます。金網のへこんだ部分では、紙が厚くなり、でっぱった部分では紙は薄くなります。ですから、人物の顔や模様が自由に表現できるのです。
透かし模様は、一般的に繊維が短い方が明瞭に出るので、楮の手漉き和紙のような繊維の長い紙では、明瞭な透かし模様ができません。ひご目や糸目もハッキリしていないはずです。ですから、奉書などに透かし模様を入れるときは、模様の線の幅を少し太くして、明瞭な「白透かし」を作っています。
透かし模様は、手漉き和紙だけでなく、機械抄きの紙にも多く使われていますが、透かしの作り方は、手漉きの場合とは異なります。金網の上に繊維が堆積した後で、透かし模様の形をした円筒状の網を繊維層の上から押しつけると、繊維が形どおりに押し退けられて薄くなり、透かし模様になるのです。
(大川昭典)
※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p52-53 全国手すき和紙連合会発行
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