キーワードは「指先によって「心から形へ、形から心」を表わすことができます」。

 奈良、平安の昔、貴族社会において御幣(ごへい)、人形(形代・かたしろ)、紙垂(しで)、結納品の中の熨斗(のし)を包むなど、儀礼や祭の中で、貴重で清浄な白紙を「祭忌用」に折ったり切ったり、結んだり畳んだりして使われました。

 鎌倉時代になると、朝廷と新たに台頭した上流武士社会との意思疎通をはかるための大切な手段「礼法」として、贈答・儀礼に使われる紙の枡形はさまざまに発展しました。太刀や紙などを贈る際、目録として折紙を付ける「太刀折紙(たちおりがみ)」「要脚折紙(ようきゃくおりがみ)」がありました。現代でも保証付き、由緒正しいといった意味で「折紙付き」という言葉が残っています。
 
 江戸時代、紙という素材が増産され印刷出版(木版摺り)も盛んになると、上流家庭から新興の町人文化、そして一般庶民へと折紙が引き継がれ普及していきました。都市町人の経済的成長を背景に、世界一古い遊びの折紙のテキスト魯縞庵義道(ろこうあんよしみち)『千羽鶴折形』(一七九七年)や、足立一之『かやら草』(一八四五年)などが出版され、格式ある「儀礼」から「遊び」の折紙が数多く誕生・参入したのもこの時期です。

 近代化された欧米文化の波が押し寄せる明治になると、時の政府はドイツ人フレーベル(幼稚園創始者)の教育指導に基づき幼児教育に「折紙」を採用しました。大量生産の可能な洋紙の出現とあいまって、さらに広く世界中に普及し今日に至っています。

 指は第二の脳であり、紙を指で折ることは正に指の森林浴です。その素材は身近にある紙で、はさみや糊などの道具もいらないのです。


 祈願する時、千羽の鶴を折り束ねる「千羽鶴」の美しい風習。指先の動きが脳を剌激し、集中力、創造力、秩序の感覚を養うという医学的効果より、今や折紙は「幼児教育」や「趣味」という自己満足(現代のストレス解消)の人たちのほかに、「老化防止」「リハビリ」の場で大いに浸透し効果をあげつつあります。また、幾何学やコンピューターグラフィック、航空工学の分野でも、古くて新しい折紙が研究の対象となっていると聞きます。


 一枚の紙さえあれば、指先によって「心から形へ、形から心」を表わすことができますし、時間を超え、場所を選ばず、大人も子どもも楽しめ、言葉が通じ合えなくても世界中の人々と心から喜びを分かち合えるのです。

(小林一夫)

             

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p142-143 全国手すき和紙連合会発行

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