キーワードは「機械が発達しても伝統的な手漉き和紙と同じような紙を作るのは難しい」。

 

 紙の四方に自然な耳が付いている和紙を見ると、すぐ手漉き紙と分かりましたが、近年、機械でも耳付き紙をつくるようになり、手漉き紙か機械すき紙かの見分けが難しくなっています。

 機械すき紙の耳付き紙のつくり方と、いくつかの見分け方について説明します。


●耳付き紙


 手漉き紙は、紙を漉く時、簀(竹簀(かけす)・萱簀(かやす))を桁に挟み、紙料を簀の上に汲み込みます。漉き終わった後の簀の上には、繊維の屑ができていて、圧搾後これを乾燥すると四角形の紙ができます。この紙は、刃物で切った紙と違い、自然な繊維の流れが紙の周りにできています。このような刃物で切っていない紙のことを耳付き紙といいます。

 機械で耳付き紙をつくる方法は、短網抄紙機の漉き網の上に紙料の流れ方向を横断するようにテープや塗料などで網の目を潰します。するとその上には紙料が載りませんので、仕切られている範囲の寸法の紙ができます。流れ方向にも枠がありますので、四方耳付き紙をつくることができます。しかし、天地方向(幅の狭い方向)では紙料の流れがあり、網の目を潰した部分にわずかに繊維が載り、手漉き紙の耳と比べると耳のでき方が少し違うことが分かると思います。(丸網も同じです。)

 手漉きの流し漉きは、簀の上に数回紙料の汲み込みを行ない、少しずつ紙屑を厚くしていくので、地合い(繊維の分散)は良く、仕上がりの紙も良く緊っています。機械すきの場合、網に載った紙料は、全部そのまま紙になりますから、手漉きの溜め漉きと同じになります。地合いは、厚くなるほど悪くなっていくようです。

● 刷毛跡


 手漉き紙を乾燥する時、馬毛やシュロ、イネの穂先等で作った刷毛で板や乾燥機に貼りますから紙の裏面には、刷毛跡が残っているのが普通です。

 厚い紙には、腰の強い刷毛を使いますから当然残りますが、薄い紙や雁皮紙などは、非常に柔らかい鹿毛等を使いますので刷毛跡の分からない紙もあります。

 機械すき紙の場合は、耳付き紙をすき、湿紙を二枚の毛布で挟んでプレスし、出てきたところを、毛布から手で剥ぎ取り、三角乾燥機に刷毛で貼り乾燥している工場もあります。

 当然、刷毛跡が残りますから、刷毛跡だけでは手漉き紙と判断できなくなっています。

● 板目跡


 マツ板を乾燥板に使用している所では、長年の使用で年輪と年輪の間の柔らかい部分が減ってきます。このような乾燥板に座組を貼ると、年輪の部分が強く押しつけられ、板の木目が板とは逆に紙に移ります。これが板目跡で手漉き紙を見分ける判断の一つになると思います。

 ただし、滑らかな肌合いを重視する奉書、馬子などは板目跡を極端に嫌い、乾燥板には表面の平滑なイチョウの板が使われています。


※ 次回は「簀の目」「糸目跡」「その他」についてご説明します。

 

(大川昭典)
             

※参考文献『和紙の手帖II』p44-45 全国手すき和紙連合会発行

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