手すき和紙づくりにおいて最も重要な工程を写真付きでご紹介します。


平安時代に編纂された延喜式の中に,官立の製紙所内での製紙のかんする記述があり,当時の紙づくりの方法を推察することができます。しかし,当時の紙漉きには,現在使われているトロロアオイなどの粘材については触れられていないことや,原料を処理する工程を読んでみると,「溜め漉き」の方法で紙が漉かれていたことがわかります。

[平安時代の溜め漉きの方法]
原料には,麻,楮,雁皮,くらら,布(麻布)があげられ,原料の処理は,原料を短く切る(截/せつ),灰汁で煮る(煮),ちり取り(択),臼でつく(舂/しょう)という工程から成っています。溜め漉きとは,叩解がおわった紙料を漉槽に入れて簀で汲み込み,簀の上に湿紙ができたあと布に移し,湿紙が湿紙と布を交互に重ねていく方法のことです。溜め漉きに使われる紙料は,繊維が短く,よく叩解されているものほど水中での分散がよく,簀で紙料を汲みこんだとき,簀からの水漏れが遅いので,一回の汲み込みで湿紙の地合を作ることができます。一枚ごとに布を入れていたのは,叩解度の高い紙料は,湿紙と湿紙を重ねるとくっつきあい,乾燥するときに剥がすことが困難になるためです。
現在でも,版画用紙や卒業証書用紙が溜め漉きにより作られていますが,流し漉き用の紙料が用いられているためネリを加えています。

[現在は主流となっている流し漉きの方法]
流し漉きとは,楮や雁皮などの紙料に,トロロアオイやノリウツギなどから採ったネリを加え,簀桁で何回も紙料液を汲み込み,目的の厚さに達すると桁から簀をはずし,簀の上にできた湿紙を重ねていく方法です。
 この方法ですと,繊維の切断や,昔のようなたんねんな叩解しなくても,ネリを加えることで紙料液は溜め漉きよりさらに水漏れが遅くなり,何回も紙料液を汲み簀の上で往復させ,ゆっくり紙層を作ることができます。
溜め漉きは原料作りの叩解で,流し漉きはネリで水漏れの調整をすることが,両方法の基本的な違いといえます。

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)

溜め漉き(左)と流し漉き(右)

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