05.09.17up

高志(こし)の生紙便第7号が届きました。
暑かった夏が終わりに近づきました。今年もいろいろありました。次から次へとやってくる災害のこと、夏を乗り切るため「ヨウゴの鯨汁」、農家の中飯にかかせないアサツキのこと、などなど、読めばゆったり、ゆっくり、あたたかい気持ちにさせてくれる生紙便です。
一部をご紹介します。
 
一雨ごとに冷気を残して、朝など布団ををかけるようになると、あの頭の禿げ上がるほどの暑さも恋しく思えてくる。しかし雪の国に住む者にとって、心地よい涼しささえやがてやってくる鉛色の暗い冬の雪が、心のすき間に入り込んで複雑なる溜息が漏れるのである。・・・と書くとさぞかし雪国には住みたくないと思われるだろうから、言訳も記しておくと、冬を越す全てのものと共に厳しい冬を共有するわけだから、草一本愛情の念が沸き起こり、そこに暮らす人々が共にいたわりの心をつないでゆく姿は、人間味にあふれ豊かともいえる。だからこうして刈り取りを直前に控えた稲穂が秋風になびく姿一つ見ても目頭が熱くなるほど心が締め付けられる。
お盆の13日の日は大雨でまたもやあちらこちらの田んぼ、農道がのげて(崩れて)しまった。我家の田んぼも小川を挟んだ崖の上にハサ木として使われている周囲六尺あまりの杉が五本のげ落ちて川を堰き止め一部が田んぼに覆いかぶさっている。紙漉きに使っている山の湧水のパイプもそのあおりで止まってしまった。
昨年、生紙工房新設に併せて新たに別ルートから、山の湧き水を引っ張り込んだのが生きているので助かった。休日ごとに関係者とのげとり(土の片付け)である。
次から次へまるで試されているようにやってくる災害であるが、人が無事であればいつか何とかなる。
口説かず難儀儲けしたと思って頑張るしかない。
幸い水の好きな楮は、順調に育っている。
 
七月から八月、わが郷では「ヨウゴの鯨汁」をほぼ毎日食って夏を乗り切る。ヨウゴとはかんぴょうに使うユウガオである。柴に細長くぶらさがっていて、重たくなるとワラジを下から当てる時もあった。ヨウゴとナス、豆腐それにミョウガが入るとなおよろし、鯨肉といっても、塩漬クジラで一番外側の黒い生ゴムのような皮が3ミリほどの厚さでくっついている。その内側にごってりした油肉その次に硬くて噛み切れないほどの肉がついているのだが、最近売っているのはミンクと書いてあるが、イルカとの説もあったりとにかくやわらかくて噛みごたえがなく、油も軽くギトンギトンしたしつこい油でなくなってきて、土地のみんながガッカリしている。これでは夏バテには勝てない。昔の鯨汁を食ってみてえないと口々に言っている。
それに昔は安くて、庶民の食い物だったのが今、卵一ケ分くらいの重さで3千円から5千円くらいと結構高価な肉になった。それでもそれだけあれば小さくサイコロに切って大鍋2回分くらい、つまり30食分は有に取れるので安心して食べられる。こんな旨いものが東京から来た女房や他県から来た弟子達はとても油が強くて匂いを嗅いだだけで口にしない。子どもの頃から食いつけた者だけが好む食い物らしい。
この郷に住む者は、ヨウゴを見ればそこにクジラがいるのです。
今夏、最後のユウガオ
クジラ汁
 
楮の表皮を削る皮引き作業を十戸の農家の冬仕事でお願いしているのですが、毎年原木で15トン程の加工で白皮に引き落とすと表皮の次に青皮部分になり、これも削り取り乾燥してナイロン袋に入れて倉庫に入れて毎年その紙の注文もないので溜め込んでいたら(約8年分)とうとうネズミさんたその場所で代々永住したみたい。いよいよ紙にすべくこの春から毎日一人が漉いている。自分の背丈程になるだろう。ですが其の内、二双紙の厚紙にして素人でも貼れる壁紙用にしているのですが、売れるより溜まる一方なので置き場所にも困ってきました。
そこで特別価格にして売り込むことにしましたが、どうなるか?1キログラム800円で内職の人に支払ってきたので、紙重量1グラム当たり3円くらいになる。菊判(92×62センチ)二双50グラムで原料代150円(輸入タイ楮の3倍になる)。この紙に限ってコストとの戦いだから、1枚でも余計に漉いて干してくれよとハッパを掛けているところだ。
それでも定年を迎えた人が、トイレや廊下など自分で貼るべく買っていかれる。新築の方も近頃では壁紙を和紙にされる人が増えてきている。只、クロス屋さんたちから技術やリスクが大きいと逃げられてしまう場面も多い。近いところは当工房のスタッフの米山さんから現場に行って直接貼らしてもらうこともある。内装にかかわる人がどんどん和紙をアピールして下されば、我工房が他の領域を飛び越えたところまで手を出さずに済むのだけど。
11月の体験イベントにこの壁紙貼りをやってみる計画です。ちなみに菊判、表皮楮(92×62センチ)二双50グラム(下貼りなしで直接使える)400円と1平方メートル当たり紙代800円、いかがですか?
門出和紙イベント情報
☆長岡造形大学(新潟県長岡市)
 *地域特別講義 9月22日(木) 16時〜17時50分
  「移りゆく農村文化について」 小林康生
  要申込:学務課 0258-21-3351
☆生紙ギャラリー(0257-31-9130)
 *櫻井謙一郎 門出和紙を使った書、絵画その他
  10月3日(月)〜12月25日(日)
☆小さな美術館 季 (025-276-2423)
 *小林春規木版画・小林康生門出和紙二人展
  10月15日(土)〜25日(火)
 *フリートーキング
  10月15日(土) 夜7時〜
☆壁貼り教室 
  11月5日(土)〜6日(日)
 *門出かやぶきの里おやけ棟の二階
 *客室に菊判二双の厚紙を貼ります。
  初歩の技術しか持ち合わせておりませんが初心者の方のご参加
  お待ちしております。
  参加費は無料ですが宿泊される方は1泊2食7410円。小林まで要予約。
「高志の生紙工房」からのお知らせ
【見学、製品ご希望のお客様】
○見学(説明)は無料です。(団体でお越しの場合は事前にご連絡下さい。)
○説明の所要時間は30分程(門出和紙のできるまでのビデオ15分含む)
○最初に工房スタッフに申し出てください。係りの者がご案内申し上げますが、作業の都合等により即対応できず、しばらくお待ちいただくこともありますのでご了承下さい。
○当工房は生産施設でもありますので、道具や原料、製品等には触れないでください。
また、作業中のスタッフに話しかけることもご遠慮願います。

【体験プログラムのご案内】
○体験は前日までに申し込んでください。(団体の場合は早めにご予約下さい。)
プログラム 詳  細 所要時間 料  金
紙漉き
(10枚以上から受付)
半紙判(39cm×27cm)便箋2枚
取判(伝統製法による素材としての紙作り)
約40分 基本料金3,000円+300円(1枚)
他 送料実費
紙流し
(5枚以上から受付)
半紙判の網枠に和紙原料を流し込む(草花を入れるなど作品としての紙作り) 約30分 1枠(1枚)500円〜
他 送料実費
折染め
(10枚から受付)
お買い上げ頂いた和紙を折りこんで染液の中に浸し染にします。(染めた紙は当日お持ち帰りができます。) 約40分 紙代 菊判(92×62cm)500円〜
基本指導料(染料代含む)御1人様300円

※紙漉き、紙流しの紙は、乾燥して後日発送となります。送料実費を含め請求書を同封しますので、郵便振替払込用紙にてお支払お願い致します。


○○○ 生紙工房の開館時間と休日
午前9時〜午後5時まで
(正午〜午後1時まで休憩)
休館日は第3日曜日と祝日


「生紙工房」と「生紙便」に関するお問合せは下記まで
越後門出和紙 小林康生
〒945-1513
新潟県高柳町門出
Tel 0257-41-2361
Fax 0257-41-3024
メール k~washi@kisnet.or.jp
TOP 全国産地マップ 和紙と和紙の製品をさがす 産地の情報とインフォメーション 和紙について知りたい 全国手すき和紙連合会の出版物 全国手すき和紙連合会とは