07.03.29up

「季刊・和紙だより 2007冬号」発行
福井県和紙工業協同組合から、「季刊・和紙iだより 2007冬」号がとどきました。一部をご紹介します。


今号の内容

■越前和紙への提言
横山祐子さん(伝統工芸プロデューサー)
「世界のハイセンスな人々に向けて」
■取り組み紹介
・「紙綴り」
紙に関わる女性の交流と表現の場
・越前和紙青年部会
「カレンダー作りを通して」
■イベントレポート
・「素の紙展」2006 東京展開催
・第19回「源氏物語アカデミー」開催される
■越前和紙への提言 横山祐子さん(伝統工芸プロデューサー)
有限会社縄文社代表。シンポジウム、研修旅行、展覧会、講演会、本作り企画などを通して、日本の伝統工芸を国内外に紹介し応援するしごとに永年携わっている。伝統工芸に精通する学芸員のような丁寧な解説や情報作りには定評がある。近年、職人を巻き込んでの海外草の根手仕事文化交流に力を入れている他、現代生活にもオシャレに活かすことのできる「日本のてしごと」作品をネットで紹介販売中。
http://www.handmadejapan.com
「世界のハイセンスな人々に向けて」
●日本を雄弁に語るものたち
私は70年代から仕事の関係でニューヨークに住み、日本と行ったり来たりしていたのですが、渡米して初めて日本文化をよく知らない事に気付いたのです。帰国後、伝産協会の当時の兼崎専務理事の音頭で「伝統的工芸品国際化研究会」を有志で立ち上げました。80年代後半当時は、伝統産業も国際化ということが叫ばれ、私はその事務局として、企画運営に関わることになりました。
その時のひとつのプロジェクトに「土佐和紙」があり、文化財修復研究の方、流通の方、外国人や老舗の方などに参加していただき、財団から助成金を受けてシンポジウムを企画しました。このような経験から、物を通して文化を理解してもらうのが分かりやすいと感じたのです。物は抽象でないから説明しやすい。外国人に工芸品を見せて、こういう物を美しいと思う国民なんですよ。例えば、漆というのは樹液で、漆の伝統工芸品はこのような歴史をもち・・・という具合に、物を通して日本を語ることができるのです。
●伝統産業の本作りの仕事
本作りのきかあけとなったのは、ダイヤモンド社の60周年記念の出版企画でした。日本の伝統工芸品を収録した日本語8巻、英語8巻、ビデオ4巻から成るもので、トヨタ自動車などの日本企業が買い取って下さり、海外の図書館や学校に寄付して下さいました。その英語の翻訳を引き受けたのですが、専門知識を必要とする翻訳のため、各分野を研究している海外の学者を捜し出し、コンタクトを取り、十数人の翻訳チームを組んで作業しました。今のようにメールもない時代ですから大変で、2年ほどかかりました。けれども、そのセット本は普通の日本人の手に入る物ではないので余りにももったいないと思い、外国人へのお土産に使って頂けるような4〜5千円の本を作りたいと考え、出版社に写真を使わせて頂けないかと交渉しました。そうしてできたのが伝統的工芸品英文紹介書『Janapese Crafts』(講談社インターナショナル刊)です。

府川次男さんに習った和綴り本

イギリスにて、参加者に
時代箪笥の説明をする
木戸良平氏
●草の根手仕事交流
日本人も伝統工芸品について知らない時代になってきました。新宿のリビングセンターOZONEは立ち上げから関わっていあmすが、OZONEでは、素材別(木工、指物、和紙、漆・・・)やテーマを設定した展覧会の企画を手掛けました。そのうちに何だか「伝統工芸おばさん」みたいになってしまって・・・(笑)
インターネットでの販売は、私の好きな工芸家を選んで紹介し、ゆっくり販売しています。handomadejapan.comは一日に50万ヒット(平均700人、日本人が70%)あります。
ここ数年来続けている、職人さんの海外での講演やワークショップ、展覧会を開く仕事は、本当に草の根手仕事交流という感じなのですが、作品を販売しようとか、日本文化を宣伝しようというよりは、職人さんに何か感じてもらえればいいと思っています。私は職人さんを応援したいので、2週間くらい自分の職場から離れて、異国での様々な生活スタイルを見たり、手仕事の成り立ちも違う所があるのだと感じてもらうことも、時には必要だと思っているのです。つい最近は、時代箪笥の職人さんに、イギリスのヘイ・オン・ワイという所に行って頂きました。
●世界のハイクラス層を狙う
越前の和紙は、高級品で通っていますが、高級品は下へ向かって広げようとしても難しい。市場スケールを広げようと思うと、どうしても単価競争になりますから、安い物、質の低い物に流れていく競争になってしまうのです。購買層のピラミッドで、収入があり審美眼を持っている層は、日本では限られるかもしれませんが、世界を射程に入れればけっこう大きな層になります。世界のハイクラスな人たちは文化的にも開かれているし、海外旅行の経験も多く、知識も豊富です。こういうところに日本の工芸はまだ上手にアプローチできていない。海外に、全国の和紙見本があり、情報も得ることができ、販売もできるような和紙ショールームがあれば、次第にこのマーケットを広げることができるかもしれません。和紙で版画やシルクスクリーンを刷る人も多いですよ。
私は昔から和紙ファンなのですが、山荘の壁を和紙の袋張りでしつらえました。和紙の壁は、空気を蓄えるので独特に心地よいですね。ロールカーテンも和紙に柿渋を塗ってもらって美しい赤い光を楽しんでいます。
■取り組み紹介
■「紙綴り」  紙に関わる女性の交流と表現の場  上埜暁子さん
●女性職人の思いを紙に託して
紙漉の仕事には昔から女性が多い。全国に散在する手漉き和紙に携わる女性のネットワーク「紙綴り」というグループがある。「全国手漉和紙青年の集い」で出会い、意気投合した二人の女性紙漉き職人の文通から始まった。しばらくは二人の間で意見や想いを交換していたが、他にも考えを持つ女性紙漉き職人との交流を持ちたいと冊子を制作することを考え、平成10年に創刊準備号を制作した。「青年の集い」で出会った紙漉き職人を中心にネットワークを広げ、次第sに参加者が増えていった。活動は半年に一度、各自が漉いた和紙に自分の近況や半年間に考えた事、悩んでいる事などを書き綴る。思を書き込んだ紙は人数分制作され、持ち回りの担当者が綴じて執筆者に送られる。

上埜暁子さん
(自身の作品を前に)
この冊子は非公開。公開されないので自由に思いの丈を伝えられるという。女性が紙を漉くことの難しさや悩みは、小さな産地や工房では1人で抱え込んでしまうことも多い。例えば、実家が紙漉きの場合、たいていは男性が跡を継いでいる。紙漉きの仕事がしたくてこの業界に外から飛び込んできた場合でも、漉き場の従業員として仕事はできるが、なかなか自分の漉き場を持って思い通りに制作できる環境を作ることは難しい。たまたま結婚した相手が、漉き場の跡取りで、意図せずに紙漉きのしごとに就く女性も少なくない。「紙綴り」の冊子は、このような状況で働く女性の悩みや意見、想いを交換するメディアとして存在している貴重な媒体なのだ。現在の参加メンバーは、紙漉きの工房を持っている人だけではなく、漉き簀を制作している人、漉き場で従業員として働く人などで、地域も様々である。
●「紙綴り」の活動の意味
冊子の制作は7年ほど続いているが、4年前から世田谷区の梅ケ丘アートセンターというギャラリーで、年に一度、メンバーが制作した和紙作品の展覧会「紙綴り展」を開催するようになった。「紙綴り」の展示会場にて、メンバーの1人である上埜暁子さんにお話を伺った。


小学校をそのまま利用した
「和紙工芸科」研修センター
上埜さんは現在、長野県の木島平村で内山和紙を守る「内山手すき和紙体験の家」の運営を任され、紙漉き体験の指導を行う傍ら、オリジナル和紙も制作している。東京の美大を出てグラフィックデザイナーとして働いていたが、たまたま、徳島の製紙所が開催するワークショップに参加し、和紙の虜になる。その製紙所に頼み込んで入社し、以来、和紙に関わることとなった。
その後独立の準備をしていた所、「内山手すき和紙体験の家」の運営をしないかという話が持ち込まれ、内山和紙の里へ単身入り込んで施設の管理運営をはじめた。内山和紙は、江戸時代初期に飯山辺りに製造技術が伝わったと言われ、楮の漂白に薬品を使わず雪を使って晒すのが特徴だ。豪雪地帯の雪の中で晒す作業により、丈夫で風雪に耐えうる紙が出来上がるといわれている。
木島平村の「内山手すき和紙体験の家」は途絶えてしまったこの紙漉きの文化を守ろうと自治体が設置したもので、その後地元の有志が出資して運営している。上埜さんは、紙漉き以外にも施設の運営コストの削減、売上げ向上への工夫などお金の心配をすることが多かった。紙漉きが途絶えた産地に一人でやって来て、周りに同じ紙漉き職人として相談できる人もおらず、孤独な毎日だったという。そんな中、平成13年に新潟で開催された「全国手漉和紙青年の集い」に参加し、そこで「紙綴り」の活動を初めて知った。
「それまで、施設の経営などお金の事ばかりを考えていましたが、この様なお金がからまない活動がなにより新鮮でした。『紙綴り』の活動には、冊子が欲しいのでずっと参加しています。この冊子には、世の中で売っているような情報誌などにはない、紙を作る女性だけの物語があります。いまどきわざわざ紙を漉こうという女性は、自分からこの世界に入った人もそうでない人も、何か自分で考える所があって紙を漉いています。そういう考えを持っている人は面白く、自分の励みにもなります。紙に書いて文章にするという行為を通じて、単に会っておしゃべりうるよりも密度の高いやり取りができているのだと思います。」と上埜さんは語る。
2006年6月に開催された展示会「紙綴り展2006」は、和紙の可能性を深め、広げる試みを「和紙の可能性」展と題し、照明器具、和紙の洋服、カード、等が展示された。
2,007年は「紙綴り展」だけではなく、11月9〜21日、手漉き和紙によるカレンダー展を梅ケ丘アートセンターにて企画している。

紙綴り事務局
代表人 後藤敦子
電話 03-3956-1639

ボール型に和紙を成型した照明器具

発行人:福井県和紙工業協同組合 山田益弘
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