■越前和紙への提言 濱中淑光さん(経師職人) |
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東京世田谷区で経師店「濱中秀光堂」を営む経師職人。伝統的な和紙を使用した襖張り・壁張りを継承しながらも、職人の視点から和紙インテリアの新たな可能性に挑戦している。地元建築家と、住宅全てに和紙壁を張ったプロジェクトや住宅の洋風化で最近一般の人が目にすることがなくなった経師の技の世界を紹介するワークショップ開催などにも協力している。 |
「もっと職人になって欲しい」
●住宅に和紙が使われなくなった経緯
一般的には戦後の住宅の洋風化と共に、住宅に和紙が使われなくなったと言われていますが、施工現場から具体的に眺めると、ビニールクロスができて下張りをしなくなったのが原因でしょう。昔は安いアパートの壁でも、はがれてくると、安い価格でしたが、袋張りをやっていたのです。それが少し経つと「ヘッシャンクロス」といって、ジュート糸をたて、よこ糸に使用した壁張り用平織物が使われるようになりました。このクロスは、壁面がベニヤ板でも表面のでこぼこを拾わず、袋をかける(袋張りで下張りする)必要がないのです。次にビニールクロスが出てきた時に、楮紙や桑チリ(下貼り用の和紙の一種。桑の皮などを漉き込んだもので茶チリ紙より丈夫。)で袋をかけると、紙の重なる部分のでこぼこをビニールクロスが拾ってしまうので、下張りをやらなくなったのです。また、壁面にはスイッチやコンセントもあり、始末もめんどうくさいし、手間がかかるので、職人も袋張りを敬遠するようになり、技術が継承されなくなりました。住宅の供給が、建売り住宅やハウスメーカーの商品を買うという感覚になってくると、納期も早いので時間をかけていられない。住宅の価値も、建った時が百点で、次第に価値が下がっていくという具合になってしまいました。昔は、住んでいる人が職人と一緒に家を造っていくという感覚があって、塗り壁を中塗りした後は、家人は引っ越して、暫くして上塗りをかけるというのうなこともやっていたのです。 |
●もっと職人になって欲しい
この世界で、今70〜80代の親方の世代は「和紙」と言えば全て手漉きの事を言います。明治の初めに洋紙が入ってきた時、日本で作っていた紙を和紙と命名したそうで、その時は当然手漉きしかありませんから、和紙=手漉きとなるわけです。私は個人的には、日本の文化に携わっている紙は和紙と言っていいのではないかと思っていて、機械漉きも使います。以前、産地の人と和紙の議論をしている時に、和紙=いいもの=高い=使えない、と敢えて憎まれ口を叩いたのです。そしたらすごい反発があって、高くない、自分たちは大変な思いをして紙を作っていると言うのです。それは勿論知っていますが、ごく一般的な方々にとっては和紙とはそういう物ですと言ったのです。私は紙漉きの人たちはもっと職人になって欲しいと思います。私からすると、壁装材に使って初めてお金がもらえる。手漉きでもコストに見合ういろいろな物が欲しい。この予算で漉いてもらう方法がありますか?と聞いたとき、この程度の品質でこんな配合ならできますと自信を持って応えてくれる職人がいてほしい。最近は、アーティストのように芸術的な紙を漉く所もありますが、住宅需要の面では定番的に使う事ができる基本の紙を持っていてほしいし、エンドユーザーや職人の様々な要求の相談にのって欲しい訳です。こちらももっと使いたいのですから、値段に応じていろんな和紙がほしいのです。 ●和紙のデメリットがメリットになる時
和紙を壁装材に使用する場合、汚れや毛羽立ちなどデメリットは沢山ありますが、それが同時に調湿効果や暖かみ、風合いといったメリットでもあるわけです。ある建築家との出会いで発見したことですが、お施主さんに一枚でも和紙を張って頂くと、その調湿効果や暖かみを実感して頂けるようです。こんなワークショップみんたいなもので、和紙への理解を深め、ファンを作れば、益々和紙のデメリットがメリットになるように思います。 |
サンプル用の襖を見せ
提案することもある |
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「和紙の壁展」開催時に
市松に張った漉き返し紙 ↓
屏風作りのワークショップの模様 ↑
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何年か前から本鳥の子が厚くなりました。その理由を産地の方に問い合せたところ、明らかな施工クレームなのにメーカーから漉き元の方に改良(悪)の要請があったようです。こういうケースを防ぐためにも生産地と施工業者と販売元などで率直に話し合う場があったらいいなあと思います。
和紙はやはり一度張ってみると、その良さが実感できます。和紙を住まいに取り入れるには、建築家や和紙の研究会に入っている人、私のような職人など、和紙の好きな人に相談するのが、結局一番確実な方法だと思っています。中には和紙好きが高じて、ある産地に通って、趣味で漉いた紙を自分の住宅に張って欲しいという人などもいらっしゃいます。 |
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