フォーラム初日の「こころホール」では,全和連会長・成子哲郎氏による開会の辞のあと,和紙ができるまでのビデオ上映。華道池坊次期家元・池坊由紀氏による生け花の実演。さらには,パネラーを招いてのシンポジウム「和紙文化の継承〜和紙の魅力を語る」と,盛りだくさんで,一般客のみなさんにも公開された,密度の濃い内容でした。


◆15日のCONTENTS◆

開会の辞

 全和連会長・成子哲郎氏

ビデオ上映「和紙のできるまで」

 上映時のようす

生け花の実演

 華道家元池坊次期家元・池坊由紀氏

シンポジウム「和紙文化の継承〜和紙の魅力を語る」=抄録=

 コーディネーター
 京都新聞社 報道局次長 吉澤建吉氏

 パネラー
 
岡田英三郎氏(京都学園大学非常勤講師)
  
歴史にみる和紙の再利用...etc
 
林 伸次氏(黒谷和紙職人)
  新しい世代による和紙づくりへの挑戦...etc
 
千田聖二氏(唐長次期代表)
  唐紙と生活空間について..etc
 久和孝司氏(設計事務所)
  店舗・建築設計と和紙..etc 
 
池坊由紀氏(池坊次期家元)
  (※コメント順)

 パネラーによる提言や感想(要約)

 

 総合司会・阪田良枝氏(全和連事務局長)
 

全和連会長・成子哲郎氏

成子哲郎氏のスピーチ

 

「こんにちは。みなさまと一年ぶりの再会となりました。京都では三回目の手すき和紙連合会の研修会を,ここ池坊短期大学で開催することになりました。今回は指向を若干かえまして,フォーラム形式で進めていきたいと考えます。(中略)シンポジウムでは『和紙文化の継承〜和紙の魅力を語る』というテーマで,各分野で和紙を使っておられます皆様方に,和紙の魅力について語っていただきたいと思います。

 私たち生産者としましては,安寧している中で,こういったお話を聞かせていただけるということは,我々の今後にとって大いに参考になると考える次第です。

 この二日間を有意義に楽しくお過ごしくださいますよう,心よりお願い申し上げまして,開会のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。」

 


 

富山県南砺市・東中江和紙協同制作による,
楮の収穫から和紙が作られるまでの
過程と作業風景が紹介されました。

 

 

一つ一つの過程を丁寧に説明しながら
あざやかな手つきで生け花されました。
和紙と生け花のコラボレーション。

華道家元池坊次期家元・池坊由紀氏

「ご紹介にあがりました池坊由紀と申します。今日は手すき和紙のフォーラムということで,一枚一枚ていねいに作られた,そのまた二つとない和紙と,お花のほうも,同じ種類の花がたくさんあっても,一つ一つの命を持って生まれた花々が和紙と共鳴し合って,一つの作品ができるよう頑張っていきたいと思います。(中略)

 今回,和紙を円柱状にしております。和紙には洋紙にはない柔らかさや温かみがあると思いますが,これらを大小変化つけつつ,お花を生けて行きたいと思います。平面とは違ったいろいろな表情をご覧いただけます。 (中略)

 さまざまな色の和紙も,手で千切って飾り付けております。こうして和紙を千切っておりますと,まるで童心に帰ったかのような気持ちになりました。和紙の魅力は,一枚一枚,紙肌の表情が不揃いですし,目に見える繊維感が生け花の手作り感につながるのではないかと思います。(中略/生け花の骨格が完成)

 今回,花はポピーを主にして生けましたが,このポピーは,真っすぐではなくしなやか曲線を描くように茎が曲がっています。これが和紙のピタッと型にはまらない奥ゆかしさと通じるのではないかと思いました。(作業に集中される)

 お花畑のような春の雰囲気漂うアレンジにいたしましたが,いかがでしょうか? 
 和紙には包容力があるといいましょうか,非常にいろいろな物を受け入れる融和性を持っておりますので,さまざまな植物を生かすところがあると思います。和紙が白というよりは繊維が入り少しアイボリーがかった白だと思いますが,その白に良く映える色,そしてまた,その白を引き立てる色ということで,もりだくさんの色を使っています。

 通常,生け花をするときは多くの色を使わずスッキリまとめることが多いのですが,和紙の白さがあるからこそ,いろんな色を生かすことができますし,花で和紙の持つ清潔感や純白感が生かされます。」

ついに完成。
そして照明を落として一同観覧。
美しさに感嘆の声

 

 

和紙文化について
パネラーとコーディネーターが熱弁。

 

◆コメント順に抄録を掲載いたしました◆

京都新聞社 報道局次長 吉澤建吉氏コーディネーター

 

コーディネーターとして
シンポジウムを
見事に舵取りされました。

 

(前略)今回は,全国から集まられた手すき和紙連合会の皆様方と,新聞等をご覧になられた一般の方々が,たくさん,この会場に集まられた事と存じます。
 手すき和紙の職人様および関連業界の方々にとりましては,パネルディスカッションをお聞きになることで新しいアイデアが生まれる事もあるでしょうし,一般の方々にとりましては滅多に接する機会のない手すき和紙の新しい魅力を発見していただければと思います。」


※ 吉澤氏より各分野でご活躍されておられるパネリストの紹介。
 
ステージ上右側より,
池坊次期家元・池坊由紀氏
建築設計事務所代表・久和幸司氏
京都学園大学非常勤講師・岡田英三郎氏
唐長次期代表(京唐紙製造元)・千田聖二氏
黒谷和紙職人・林伸次氏

以上の五名の方々に,ご自身のフィールドと和紙の未来について語っていただきました(一人10〜15分)。会場ではプロジェクターを使用して,お集まりいただいた方々へ視覚的に理解いただけるよう試みました。

 

岡田英三郎(パネラー・京都学園大学非常勤講師

 

歴史にみる和紙の再利用
和紙と現代生活
京都と和紙
多彩な話題を展開されました。

 

「岡田でございます。私は学識経験者というわけではなく,たんに趣味のそのまた趣味で和紙に関心を深めてきた者であります。
 私は,もともと洋紙つまり新聞紙の再生について仕事で取り組んでいました。そこから派生して,歴史が好きな事から和紙の再利用について関心をもった次第です。

 (※当日,配布されたトークにかんするレジュメについての説明の後・・・)
 
 かつての日本には,和紙をめぐる生活文化がありました。また和紙を再利用することで和紙文化の一翼を担っていたというのが,私の考えであります。
 紙の機能には「書く」「包む」「補強する」「装う」・・・先ほど生けていただいたお花の場合は「装う」に近いものですが,それと「再生する」,最後に使えなくなったものは「燃やしてエネルギー源にする」。しかも残った灰は「栄養源」になる。そういった具合に,環境的にも非常にうまくリサイクルされていたというのが,ひとつの和紙文化をうまく形成していたと言えます。
 (中略)
 紙を再利用するということで,「書く」という機能がございます。ここに示しましたのは(プロジェクターに写った史料),正倉院文書でございまして,下総国葛飾郡大島郷籍の,表面は戸籍であり,裏側には,正倉院で「いくらいくらの紙をくださいと請求した」や「何何にいくら使った」といった事務的な事が書いてあります。こういった紙を紙背文書といいます。
 表側の戸籍については,6年に1回書き換えますので,それが不要になったら,20年あるいは30年そのまま置いておきまして,その後,裏側を再利用したわけです。再利用には,こういった「書く」という機能がございます。

 次に(プロジェクターに写った史料).これは葛飾北斎の有名な「富嶽三十六景」のなかの一枚です。これが使われたかどうかは知りませんが,江戸の末期に,フランスに陶器を輸出するとき,当時は浮世絵の人気がなかったのでしょうか,浮世絵が印刷された紙で包んでフランスに送ったわけです。それに見たフランス人のブラックモンという方が,それを見て浮世絵に注目し,当時の画家に見せました。これによってフランスの印象派を興隆させたわけです。日本人が印象派を好むのもアイデンティティの一部ではないかなと勝手に思うところです(笑)。そのような「包む」という機能があるわけです。

 (※スライドを見ながら)これはみなさんもご存知の正倉院の鳥毛立女屏風です。なぜこれを紹介したかと申しますと,この裏側,いわゆる襖の下張りに,要らなくなった文書などが補強用として使われていました。こういう例がたくさんございます。

(※中略/「補強」の目的に使われた「すさ」に藁だけでなく和紙が再利用されていたことの紹介。)

 これは絵が少し汚くて申し訳ありませんが,もともとは京都の建仁寺に,織田信長の弟・織田有楽斎の茶室が,今は(愛知県)犬山の有楽苑(うらくえん)に移っていますが,「故紙」が全て「古紙」でできています。
 次は「装う」という機能です。和紙で一番特殊的なのは「漉き返す」ということです。紙を,もう一度,元に戻して漉き返す。これは,綸旨紙(りんじし)といいまして,これは天皇が司書団に書かせるものです。ふつう,墨が残っていますので,色合いが少し黒くなります。
 そして,これは横浜の金沢文庫にあります金沢貞顕の円覚経です。個人のゆかりの手紙等,漉き返し,それにお経を書いて供養したものです。こういったものが平安のはじめ頃,清和天皇の女御だった多美子という人がやっていたということが記録として残っています。漉き返し経ともいわれています。
(中略)
 そして,もう一つは,漆紙文書といいます。漆を容器に入れておきまして,これが使わなくなったら,これに蓋をするとき古い文書を使います。そして,次に改めて使うときに捨てるわけですが,ところが,漆は非常に強く,土の中に入れても腐りません。そのため,こういう文書が残ります。そのなかに字がいっぱい書いてありますので,赤外線を当てますと字が浮かんできます。ちなみに,典型的な例としましては,茨城県石岡市の鹿の子遺跡から出たものです。表面一面に最初は戸籍,裏に暦。それから余ったところに習書をビッシリと書きます。それから漆紙にします。
 
 最後に「和紙と現代生活」ということでを紹介したいと思います。何年か前にパークスコレクションというものがありまして,「海を渡った江戸の和紙」ということで,江戸時代の末にハリー・パークスが当時の紙および紙製品をいっぱい集めまして,イギリス本国に送りました。この方は外交官です。外交官とは言い方が悪いかもしれませんが,スパイ的な仕事をしていたところもあります。これを見ますと,今は見る事のない和紙,現在,多少はそれらしいものが残っているもの。現代でも活躍しているもの。新しくできたけれどもなくなったもの。たとえば謄写版用紙がこれに入ると思います。
(中略)
 以上でございます。」

 

林 伸次氏(パネラー・黒谷和紙職人)

 

若き手すき和紙職人の姿や
後継者育成の事など
生産者の立場が赤裸々に。

 

「林です。今,とても緊張しておりまして・・・パネル紹介のところで,生産現場からの発言ということで,生産工程を紹介しようと思っていたのですが,先ほど,同じような内容のビデオが流れましたので,これは困ったなと思ってしますが(苦笑),黒谷の形と文化の継承ということをお話したいと思います。

 継承するということは後継者が必要となりますが,現在,黒谷には10人が新しく継承者として登録されたメンバーがいて,そのうちの6人が会場に来ています。(中略)
 黒谷では,平成2年から楮の栽培組合ができまして,一括して楮を栽培してもらっています。黒谷の和紙の中心的なの供給地となっております。
(※スライドを使用して画像入りで楮の栽培加工および楮紙の製造工程を説明。ただし,シンポジウム前半で上映されたビデオとほとんど同じであるため,要点のみ紹介される)

 楮の原材料を購入した後は,いったん,原料の下準備をするため,すでに和紙づくりを廃業されても和紙にかかわっていきたい人々に原料の下準備を依頼します。(中略)
 黒谷では「ねり」にトロロアオイを使います。かつては夏にノリウツギを使っていたそうですが,今はトロロアオイが主流です。(中略)
 黒谷の特徴はバチャバチャと漉きときに長く「ゆる」ことで,よその産地から来られた方に「こんなことをしていて食えるのか?」と言われたりもしますが,意外と長く「ゆり」ます。(中略)

(※スライド(若手職人によるハガキを漉く作業や,できた和紙を乾燥させる作業を説明。「60の手習い」といって春に研修を終えた女性がいることも紹介。)

 黒谷では3軒だけ和紙職人が残っていますが,後継者が内部にいるのは,たった1軒だけで,あとは,私どものように外から紙漉きをしたいと,この世界に入ってくる者がおります。黒谷の場合は組合自体が加工部を持っておりまして,できた紙は,そこで加工されます。(中略)

 新しい試みとして,2007年度から,黒谷では,上林という地域に工房を拡張し,私は,この工房におります。(※スライドで写真を紹介しながら)ここでは,小学生による手すき和紙体験をしてもらったりしています。上(アートフォーラム)でやっている紙漉き体験と同じ方法なので,一般のお客様でやってみたい方は,ぜひ体験してみてください。

 (※スライドで様子を見せながら)綾部市では,小学六年生に,工芸の里(※廃校になった元小学校を利用した手すき和紙の工房)に来てもらい,自分の卒業証書を作る授業をしてもらっています。
 
 (※スライドで様子を見せながら)これは京都府園部町に京都伝統工芸大学さんがありまして,そのなかにある和紙工芸科を黒谷和紙が受け持っているという形で,工芸の郷で週に3日,将来において紙を漉きたい,もしくは作家になりたい人が来て学んでいます。みなさん大変に勤勉で教えやすいです。今日の朝も手伝いに来てくれました。

 黒谷和紙は若い人も頑張っていますし,いくら良い技術があっても,それをつないでいく人がいないとどうしようもないと思います。各産地もいろいろと努力をされていると思いますが,黒谷もますます若い子達と一緒に発展していけたらなと思う次第です。
 こんな感じで申し訳ないです(苦笑)。一同拍手。

余談
吉澤氏「こうして職人さんから説明していただかないと,どうして和紙が高いのか理解できない。大変な作業。」
林氏「体験してもらうことで,作業の大変さを知ってもらう事で,手すき和紙の値段を納得してもらえる」」

 

千田聖二氏(パネラー・唐長次期代表)

400年の伝統を持つ
京唐紙の老舗の次期代表が
唐紙と生活空間について紹介。


「唐長の千田です。よろしくお願いいたします。
 まず,唐紙というものが,どういう空間に使われているのか,二・三の実例を見ていただいて説明させていただき,その後,私たちが製作している唐紙の工程をお見せし,どのようにして和紙と紋様が組み合わせられて空間を作り上げる一つの唐紙になるのかを説明させていただきたいと思います。
 
 では実例を見ていただきます。こちらは,東京在住の方の邸宅に貼られた唐紙,これは枝桜という紋様なのですが,天井にはっています。写真で見ると空間の大きさがわかりにくいですが,相当広いスペースの天井に唐紙をはり,和紙で造形された照明がボーンと大胆に吊られています。
 この枝桜という紋様が,スーッと見え隠れしていますが,光の当たり方によって,紋様の見え隠れ,いわば陰影の効果が特徴で,これが我々のような唐紙を作る大部分の者が使う雲母(きら)という雲母の粉末なのですが,この顔料を使って光の当たり加減で陰影の効果が非常にやさしく空間作りとして現れてきます。(中略)
 
かつてのように文明の利器がなく,自然の光を積極的に取り入れていた昔,現代よりも短い夜に,唐紙がロウソクの光に変化をもたらす役割を担っていました。ですから,唐紙の役割は凄く控えめなのです。(中略)ですから,知らないうちに,「やさしさ」や「やわらかな」空間に包まれた時間を過ごせる。こういう効果を唐紙はもたらしてくれます


※唐紙にいての説明(要約)

  • 茶室の紋様(スライド)
  • 京都の曼殊院の「竹の間」にある日本最古(300年)の唐紙の説明(スライド)
  • 唐紙製作の道具の説明
  • 唐紙の文様説明(茶方好み/寺社好み/公家好み/町家好み/武家好みノetc)


余談
吉澤氏「千田さんのところは創業何百年でしたか?」
千田氏「400年になります。」
吉澤氏「じつは10年前,新しく建てた家の居間に瓢_柄の唐紙を千田さんのところでお願いしました。

 

久和幸司氏(パネラー・建築設計事務所代表)

店舗や住宅の設計をとおして
和紙の魅力と可能性について
ご自身の施工例で紹介。

 

「よろしくお願いします。今回は建築の立場からということで,和紙の活用方法の資料をかき集めましたので,スライドをお見せしながら説明したいと思います。

 まず簡単にですが私の仕事についてお話しします。設計事務所と申しましても,6〜7割は店舗等商業施設,京都で言えば町家を改装した居酒屋さんをはじめとする店舗の設計。そして残りの2〜3割が住宅の設計といった感じで仕事をさせていただいております。
 そこで和紙を使った物件といいますと,どうしても和系統のお店といいましょうか,正式な和風という訳でもなく,まあ年齢的なこともありますが,そういった物件が多いです。

 建築で和紙を使用する場合,まずは障子や襖,壁紙や照明があると思います。たとえば,私の先輩が取り組んでいる事例としては,和紙を大きな壁にはり裏から照明を当てて,光壁のような物をつくりといったことがあります。
 それでは,スライドを使って住宅で使われている和紙について説明いたします。こちらは掘りごたつがある和室で,素朴な感じの和紙を壁と天井にはりました。実際にはってみますと柔らかい雰囲気が出て,和紙独特な調質効果があるようで,クライアントさんは気持ちよく暮らしておられるとの事です。
 
(※韓国料理屋や居酒屋,炉ばた焼き屋,豆腐料理屋,東京お台場でのインスタレーション<和紙とLEDを使った光とのコラボレーション>...etcでも和紙を使用した事についての説明がある。)

いろいろと資料をかき集めてご説明いたしましたが,今,建築の現場で進めてるプロジェクトの中には,先ほどご紹介しましたような光壁を使って,光源を,たとえば,今,目の前にある唐長さんの唐紙を使ったランプシェードの光もLEDを使っていますが,最近,LEDが使いやすくなってきまして,それを使っておもしろいことをしてみようと進めているところです。

 今回のパネラーの中で私は和紙のことをあまり知らない人間ですが,新しい技術と組み合わせていけば,和紙が,もっといろんな用途に使えるのではないかなというイメージがあります。(後略)

余談
久和氏「クロス屋さんが和紙を使う事の難しさを感じているので,唐紙を持っていくと,たいてい怒られます(苦笑)。」
吉澤氏「私も新しい家に唐長の唐紙を使いたいと言ったところ断られまして・・・ビニールクロスだと何回失敗しても張り替えがききますが,唐長の和紙では失敗が許されないというか,張り替えがきかないようなんですね。」
久和氏「現場ではコストが問題となりますからね・・・。」
(後略)
千田氏「私たち作り手のほうも使い方を伝えていかなかればなりませんね。(後略)」

 

池坊由紀氏(パネラー華道池坊次期家元

華道と和紙は切っては切れないもの。
和紙の芸術性についても
大いに語られました。

 

「500年間続く池坊華道はひとつの伝統文化の継承の場でもありますので,それこそ和紙もいろんな場所で,たとえば表彰状やお免状などにも和紙を使わせていただいています。
 やはり和紙でできた表彰状やお免状を手にしますと,もちろんお免状というソフトとしての価値もございますが,和紙が使われていることで価値がまた一つ高くなるような,贅沢感と申しましょうか,長い歴史に裏打ちされた素晴らしさは,洋紙にはないものと思います。

(※スライドにて古文書の絵を紹介しながら,和紙と生け花についてのかかわり(花を包む時の「折り目」等)や生け花の作品が紹介される。)

 生け花の実演のさい自由花についてお話いたしましたが,本来,生け花は花だけでなく葉や茎など全体の姿を捉えて生けるのが常なのですが,自由花は新しい手法で,花の姿を捉えるのではなくて,花の一部分,たとえば形のおおしろさや色の美しい部分や艶々した質感など「部分」にスポットを当てて生かすのが自由花というカテゴリーです。
 今回は和紙とのコラボレーションということで,和紙の特質,つまり和紙の部分的に解放して,それを花と融合できないかと考えました。(中略)
 
 私は,自由花の素材として,和紙は無限の可能性を持つ素材と思っております。和紙の「透ける」という特性を生かしまして,陰影を効果的に取り入れる事により,いろんな表現ができますし,見る人に,いろんな印象を持ってもらえますし,解釈をしてもらえる点で,自由自在,融通の利く素材ではないでしょうか。(中略)
  
 和紙を見ると,いろんなイマジネーションがわいてきます。なぜならば,先ほども申しましたとおり「透ける」「光を通す」といった特性や,「シワができる」ということが芸術的に見ても,とてもおもしろいといいましょうか。すでにご紹介しましたような「折り目」のような端正な美しさもありますが,その反面,シワのような自由奔放な約束事のないシワ感というのも非常におもしろいと思いました。(中略)
 
 今回,ここにあります作品を生けたり,いろんな形の制作に携わって,和紙が,とても神々しい「神聖」な一面と芸術的にも「楽しい」という,そんな多面性を思い知りました。今は和紙の魅力や和紙の存在自体を知らない一般の方が多いと思いますが,新しい切り口で,新しい見方で和紙に触れていけば,これからも,どんどん可能性を広げていけるのではないかと思った次第です。」

パネラーによる提言や感想

岡田英三郎氏

(前略)和紙の製造法にかんしては,手づくりといっても,昔に比べると合理化されています。たとえば,昔は木灰や貝の灰がソーダ灰にかわったり。本質的なところは変えられませんが,製造法は時代に応じて変わらざるを得ません。
 それと,生産者は,競争者を作っていくことが大事です。私は,かつて,新聞紙のインクを抜いて再生する仕事に従事していましたが,その事業は一社による独占状態でしたので,技術が発展しません。和紙職人の方々におかれましても「暖簾わけ」等,積極的にしていってほしいと思います。
 そして,一般の方々にとりましては,何よりも「ぜひ和紙を触ってほしい」。アートフォーラムでは,人間国宝が漉いた紙を触らせてもらいましたが,そんなことは夢にも思いませんでした。
 和紙が主体でなくてもかまいませんから,和紙の使い方を考えて,まずは買ってみましょう。使ってみて,生産者にいろいろ提案して刺激していけばいいのです。」

林伸次氏

「全国には各産地特有の和紙がありますから,それぞれの特徴を生かして使っていただくという意識も大事です。使い手の「こういう紙がほしい」という要望を聞きながらも,昔ながらの製法で伝統の上に乗っていくことが大事だと思っています。」

千田聖二

「一生一大事ともいうべき住宅の建設においては,空間の大部分がビニールで作られたクロスで覆われています。いくらホルマリンが出ないですとか,各種試験をクリアしていても,「人の手のぬくもり」はビニールクロスではあり得ない。すべて自然から取り入れたもので唐紙は作っていきます。 
今後もユーザーのニーズに合わせていきたいものです。」

久和幸司氏

「インターネットが発達して情報量は莫大ですが,やはり和紙の良さは触ってみないとわかりません。アートフォーラムで道具等を見させていただいて,あらためて実感しました。」

池坊由紀氏

「和紙の持つ融和感,包みこむ感じを大事にしていきたい。華道人として何ができるかと考えてみましたところ,まだまだ使っていない和紙がたくさんあります。今回,こうして生産過程等を拝見させていただきまして,残った和紙を倉庫にクチャッと入れておく事は,とてもできないと痛感しております。今後の生け花展においても,和紙を切ったり貼ったりシワにしたりして,平面の和紙を立体の生け花に生かすべきか,大いに可能性を探っていきたいものです。」


TOP 全国産地マップ 和紙と和紙の製品をさがす 産地の情報とインフォメーション 和紙について知りたい 全国手すき和紙連合会の出版物 全国手すき和紙連合会とは