絵画や文書を保護するために和紙が多用される理由は,破れにくい,折り曲げを繰り返しても破損しないという強靱さにあると思われがちです。しかし,文化財修復の現場では,和紙の持つ柔軟性や安定性を第一の理由として利用されます。
数ヶ月から10年程度の期間であれば,加工されたパルプ紙の方が和紙よりも強度がずっと高くなりますが,文化財の保存は100年を一応の目安と考えます。また,和紙を使って修復される文化財のほとんどは,大切に管理され,雨風に打たせたり,太陽に晒されたりせず,台の上に置かれたり,壁に吊り下げられて鑑賞されます。
その点において,100の強さが10年で100分の1になってしまうような紙は不向きで,30の強さが100年経っても20以上残っている紙が求められ,和紙こそが目的に適っているわけです。
たとえば,ヨーロッパの図書館・博物館・美術館附属の修復部門で,紙に描かれた絵画,書写された文書,印刷された版画などの破損を修復するときには,薄い和紙が多用されます。ヨーロッパの紙は,和紙に比べて厚くゴワゴワしているので,その表面に薄い和紙を貼り付けても和紙の下になった文字が読めなくなることはありません。透明性においては,雁皮紙が一番高く,彩色のある本の修復には良く使われます。
厚い和紙は,本のページを支える場所に使われます。ヨーロッパの本は,紙を二つに折った折り目に沿って,綴じ糸で縫い合わせて製本されていますが,その折り目が傷むことがあります。そのため,折り目に沿って,和紙を裏表から張りつけて補強したり,折り目で二枚に離れてしまっている場合は,和紙で二枚をつなぎ,和紙の折り目を綴じるのです。
和紙は,柔らかいうえに,折り曲げても破れにくいので,本の修復には欠かせません。
※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)
|