日本の文化を担う日本画のためにも、絵描きと漉き手の交流が望まれます。


 日本画は、技法的に広く世界にゆきわたった技術の絵画です。天然の岩石や植物、動物などから色素を取り出し、それを動物にふくまれるコラーゲンのニカワ(膠)と練り合わせた、いわゆる絵具で描く絵画で、この技術はおそらく人類が絵を描くという行為を始めたときからの絵画技術でした。そういう意味で日本画は、日本だけのものではないといえます。

 古代エジプトの壁画やヨーロッパのイコン絵画、さらにインド、中国などなど、膠を使った絵は知られています。しかし、この汎世界的な絵画技術も、油絵や新しい絵具の出現で、現在はごく限られた地域のものとなり、膠と天然岩料を大切にする絵は、日本画がその代表となりました。その日本画を支えている最も大事な素材が和紙です。

 岩壁、土壁、板、絹、革などの基底材料は、さまざまな物に対応できる日本画ではありますが、なかでも和紙は、その堅牢さや紙肌の美しさが、日本画をささえる基礎ですし、また絵具を厚く塗ったり、紙肌を生かすことも可能です。

 現在の日本画に多く使われている紙のなかでは、越前岩野平三郎氏の雲肌麻紙が知られていますが、時代によって素材である紙にも画家の好みや一種の流行もあったようです。室町・桃山・江戸時代の障壁画などに使われた紙は、雁皮を材料としたものが多く、金箔の発色の美しさや、紙肌のきめこまかさが好まれた時代もありました。中国産の檀皮を材料とする宣紙が大量に使われた時代や、それ以前の絵画には楮紙に描かれたものも数多くあります。

 現在は絵具を厚く塗る日本画の技法が主となっているため、厚い麻紙が好まれていますが、かつての日本画家は、自分の表現したい絵に合った和紙を求めて努力していました。また、紙を漉く人達も画家と話しあい、稚芳紙や方庵紙など、作家個人の名のついた紙も作られ、それぞれの両家の独自の絵画表現に大きな影響を与えていました。

 現在の日本画は戦後の一時期、日本画第二芸術論の批判をぬぐうため、伝統的な技術を排し表現効果を大切にしました。そのため、基底材料の和紙にたいする注意が疎かになった感もありますが、技術無視からくる絵の傷みに反省し、少しずつ再び基底材料に注目する作家もあらわれ、自分の作品に合う紙を創る人も
でてきました。このような状況は、和紙を考えるうえではとても大切なことで、これからは作家の表現に合った和紙がより多く求められるようになるでしょう。

 また日本画は、書道用紙のように大量に使われるものではなく、よく材料を吟味した質の高い紙、永年性のある紙が求められます。そのため、紙繊維の無理な加工や漂白を嫌います。シミや紙の劣化を早めるからです。さらに絵具を定着させるために必要なドウサ(硫酸アタミニウムカリウム)の大量使用などに対応する技術も求められています。

 とはいえ、和紙のもつ諸特性こそが、日本画をささえる大切な要素であることは事実で、日本の文化を担う日本画のためにも、絵描きと漉き手の交流が望まれます。
 

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p94-95

TOP 全国産地マップ 和紙と和紙の製品をさがす 産地の情報とインフォメーション 和紙について知りたい 全国手すき和紙連合会の出版物 全国手すき和紙連合会とは