板干しと鉄板乾燥とを比較すると品質および強度で板干しに軍配が上がります。


:: 天気のよい日に紙漉きの産地に行くと、大きな干し板に白い紙を貼りつけ、天日で乾燥している光景が見られます。周囲の緑に映える白い紙は美しいものです。

 しかしこの美しい光景の裏には、紙付け仕事をする人々が、大きく重い干し板を外に出したり、作業場に取りこんで新しい湿紙とつけかえ、また日なたに出すという重労働がひそんでいます。天気の悪い日には紙干しはできない非能率さもあり、梅雨期には紙床が腐るなどの事故も起こります。

 そこで考えだされたのが、三角乾燥機です。

 この乾燥機は、鉄板を三角性の形に張り合わせ、中に蒸気を送りこんで鉄板を熱し、貼りつけた紙を乾燥させる方法です。普通の鉄板ではさびやすく紙に弊害を生じるので、今ではステンレス板を使います。

 この方法だと天候に関係なく、楽に場所もとらずに乾燥ができます。今日の手漉き和紙の乾燥のほとんどは、三角乾燥機で行なわれています。微妙に違う、天日乾燥と三角乾燥機での品質では、天日での板干しの紙と、三角乾燥機の紙と、まったく同じかというと、やはり微妙な違いがあるようです。

 それは、紙のしなやかさが違うことです。これは乾燥温度の違いで生じますが、蒸気乾燥のほうが温度が高いので、紙に残される水分率が少なくなり、紙がかたくなります。そこでしなやかさで板干しのほうに軍配があげられるのです。

 長時間放置すれば両方の紙の水分率は同じになりそうなものですが、なかなかそうはならず、この違いはいつまでも残るようです。


:: つぎの大きな違いは、板干しの紙は三角乾燥機で作った紙より、強度があることです。

 セルロース繊維は、水に潰けると水を吸収して膨潤します。その度合いは原料の種類、原料処理などによって違いますが、いずれにしてもその膨潤した繊維で漉かれた紙は、板か鉄板に張りつけて乾燥させます。

 この乾燥と同時に繊維は収縮を起こしますが、木の板に張りつけて乾燥する場合は、板も紙も同じ植物体の一部ですから、収縮率はほぼ同じと考えてよいと思います。ということは、紙が乾燥すると木の板もともに乾燥して収縮を起こすわけですから、そこで紙の強度にとって一番大切な水素結合が無理なく行なわれ、強い紙ができることになります。

 一方、鉄板に張りつけて乾燥した場合は、紙と鉄板の収縮率が違いますし、特に三角乾燥機では温度が一定ですから鉄板には縮みは起こらず、紙だけが縮もうとします。

 そのため、紙の組織の一部が破壊されて、十分な水素結合ができず、紙は弱くなるのです。
 

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p40-41

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