和紙が洋紙よりも値段が高いのは何故でしょうか? このところ文房具店やスーパーでは安価な海外製のノートや便せんが手軽に入手できます。それに比べて和紙は、専門店や民芸品店等へ行かなければ目につきませんし、洋紙より価格が高く、稀少品というイメージを持たれがちです。
しかし、和紙を手にすると伝統の重みや、紙を漉いた人の暖かみが感じられ、毛筆などで丁寧に手紙を書くと真心が相手に通じるような気にもなるものです。
和紙の主な原料は、楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)ですが、一番良く使われる楮で作られる和紙の価格と、木材パルプで作られる洋紙の価格とを比較してみます。
楮の加工していない黒皮を原料処理して和紙をつくるには、歩留まり(※)三〇パーセントなので、和紙一キログラムつくるために原料は三・三キログラム必要です。楮一キログラムの価格は約五五〇円ですから原料代だけで一八一五円という計算になります。さらに黒皮楮を精選加工して作られる白皮楮(黒皮からの歩留まり四七パーセント)は最高級の原料で和紙になる歩留まりは五〇パーセントですから、価格は非常に高く1キログラム当たり二七〇〇円します。和紙一キログラムつくるには、二七〇〇円×二キログラム=五四〇〇円となってしまいます(価格はともに1989年8月現在)。
一方、洋紙は原木〜チップ〜パルプ〜紙といった連続した工程でできますので、価格の算定は難しいものですが、市販パルプが一キログラム当たり一〇〇円としますと、紙への歩留まりは九〇パーセントですので、洋紙一キログラム生産するのに必要な原料代は一一〇円程度です。
原料価格だけをとってもこんなに値段が違うのです。
次に、生産能率の点から考えてみましょう。和紙は長繊維の楮を主原料としているため、機械的に連続して紙にすることは難しく、一枚一枚人の手で生産されます。一般的には一日中(八時間)仕事をして、わずか三〇〇枚程度しか生産できません。例えば、ノートの広さに換算すると約一四〇冊分(三〇枚綴り)です。
その反面、洋紙は機械で連続的に作られますが、仮に長網多筒式抄紙機で、幅三メートルの紙を毎分八○○メートルのスピードで作るとして、和紙と同じようにノートの広さに換算してみますと、一日(二四時間)約二〇六万冊、なんと和紙の一万八〇〇〇倍の生産となります。原料の価格、生産能率、また製品の回転率などで、和紙と洋紙の価格には、こんなに大きな差がでてしまいます。
和紙の価格は高い理由がおわかりいただけましたでしょうか。とまれ、日本の伝統を守り続け、近代産業の中で脈々と生きつづけている手漉き和紙は、皆さんの身近にあります。
※歩留まり・・・ここでは生産された製品が原材料から何パーセント算出できるかをさします。
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