■越前和紙への提言 ジェフリー・ムーサスさん(建築家) |
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建築家。1993年、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院建築学科修士課程卒。東京にて早稲田大学助講師、谷口吉生、槙文彦などの設計事務所勤務を経て、京都の中村外二工務店で日本の伝統建築を学び、修行。2002年京都三条通近くにDesign
1 st 設立。京町屋や数寄屋の改修工事等を多く手掛ける。人気テレビ番組「Before & After」に出演。設計業務の他、現在京都大学、関西大学非常勤講師。 |
「日本の伝統建築や素材にもっと誇りを」
●伝統建築にもっと自信をもって
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私は世界中の建築を見て回りましたが、日本ほど自国の建築に対して誇りを持っていないところはないように感じます。戦後、また最近ではバブル時期がそうだったからかもしれませんが、全部西洋のものがいいという風に思ってしまって、京都を見ても伝統的な建築が次々と町中から消えていき、マンションや新建材で作られた住宅が増えました。
木や土壁、たたみ、和紙でできた日本の伝統建築はリサイクルが可能で環境負荷が少なく、汚染物質などを吸収してくれる。又1200年の歴史が培った、自然を取り入れ精神的な間を演出するなどスローライフ的な建築美学も持っている、二十一世紀にふさわしい建築なのです。今、どこの国に行っても自国の建築というのは大切にされ、人々は実際建てるのは少々モダンなものであっても、伝統建築というのは一種の憧れなのです。日本で元々使われていた建築素材は、戦後海外から入ってきたコンクリートやガラス、アルミなどに比べて貧相な素材と考えられたということも聞いていますが、そんなことはない。これは一番問題です。もっと誇りを持つべきです。
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●天井や壁に和紙を
私の手掛ける建築では、特に天井や壁に和紙を多く用います。天井は日常触ることがないので埃や汚れがたまらず和紙も長持ちします。値段の関係で機械漉きのものをよく使っています。特別な紙張りの職人さんがいなくても、現場でクロス屋さんに張り方をちょっと教えれば案外簡単に張れるものです。菊判の和紙の大きさを無駄なく使う計算の仕方や、みみを活かした張り方など教えています。
白い和紙も好きですが、アクセント的にベンガラや藍の紙を張って空間に高級感を出したり、アートのような雰囲気も出せます。私が現代建築を作るとしたら、もちろんビニールクロスは使わないと思いますが、重ね張りをするような使い方でなく、ぴっちりとした直線的な処理の和紙を使うでしょうね。
現代建築を作っても今は殆ど自然素材で作ることはできます。コンクリートやガラスでできた冷たい空間に、和紙を使うことで、日本人のDNAに刻み込まれているほっと安らぐ感覚を作ることができます。襖は特殊な技術がいりますが、壁や天井でしたら、そんなに特殊な技術がいらないので、もっと使うことができるはずです。また、他の伝統素材、例えば畳より和紙の方がずっとプロモーションしやすいですね。畳の生活は現代のラフスタイルに合わない家があってちょっと・・という家でも、和紙の天井や壁はそんなに影響ないですから。
(中略) |
天井と壁に和紙を使用した室内 |
●建築に和紙を使ってもらうには
一番重要なのは、先程も言いましたがお客さんに、和紙を始めとする日本の自然素材のものがどんなにいいかをまず知ってもらうことだと思います。
工務店は、扱いが簡単な新建材やクロスを好んで和紙をどうしても使いたがりませんが、お客さんがいい、これを使ってくれと言えば使うようになると思います。設計屋さんも教えることができると思いますが、営業の人が一般の人に教える方策を考えてみるのもいいでしょう。 |
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例えば京都なら、あるコミュニティ向けに見学会やワークショップのようなものを開いてみせるとか、グラスルーツ(草の根)的な宣伝でもいいですよね。竹炭などの炭の効用はだいぶ一般に浸透しましたでしょう。そのような方法でビニールクロスから和紙に変えさせる戦略を環境団体などと組み立ててみたらどうでしょう。
それと土地より知恵の詰まった家の方に価値があるのだという基本的な「建物感」を変えることでしょうね。日本では価値があるのは土地だけですから。そうでないといつまでもスクラップアンドビルドで建築廃棄物も多く、その面では日本は遅れています。 |