06.08.29up

「季刊・和紙だより 2006夏号」発行
福井県和紙工業協同組合から、「季刊・和紙iだより 2006夏」号がとどきました。一部をご紹介します。


今号の内容

■越前和紙への提言
ジェフリー・ムーサスさん(建築家)
「日本の伝統建築や素材にもっと誇りを」
■取り組み紹介
京都伝統工芸専門学校
国内初の「和紙工芸科」新設
■和紙をめぐる話題
微生物利用で和紙排水浄化の試み始まる
■越前和紙への提言 ジェフリー・ムーサスさん(建築家)
建築家。1993年、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院建築学科修士課程卒。東京にて早稲田大学助講師、谷口吉生、槙文彦などの設計事務所勤務を経て、京都の中村外二工務店で日本の伝統建築を学び、修行。2002年京都三条通近くにDesign 1 st 設立。京町屋や数寄屋の改修工事等を多く手掛ける。人気テレビ番組「Before & After」に出演。設計業務の他、現在京都大学、関西大学非常勤講師。
「日本の伝統建築や素材にもっと誇りを」
●伝統建築にもっと自信をもって
私は世界中の建築を見て回りましたが、日本ほど自国の建築に対して誇りを持っていないところはないように感じます。戦後、また最近ではバブル時期がそうだったからかもしれませんが、全部西洋のものがいいという風に思ってしまって、京都を見ても伝統的な建築が次々と町中から消えていき、マンションや新建材で作られた住宅が増えました。
木や土壁、たたみ、和紙でできた日本の伝統建築はリサイクルが可能で環境負荷が少なく、汚染物質などを吸収してくれる。又1200年の歴史が培った、自然を取り入れ精神的な間を演出するなどスローライフ的な建築美学も持っている、二十一世紀にふさわしい建築なのです。今、どこの国に行っても自国の建築というのは大切にされ、人々は実際建てるのは少々モダンなものであっても、伝統建築というのは一種の憧れなのです。日本で元々使われていた建築素材は、戦後海外から入ってきたコンクリートやガラス、アルミなどに比べて貧相な素材と考えられたということも聞いていますが、そんなことはない。これは一番問題です。もっと誇りを持つべきです。
●天井や壁に和紙を
私の手掛ける建築では、特に天井や壁に和紙を多く用います。天井は日常触ることがないので埃や汚れがたまらず和紙も長持ちします。値段の関係で機械漉きのものをよく使っています。特別な紙張りの職人さんがいなくても、現場でクロス屋さんに張り方をちょっと教えれば案外簡単に張れるものです。菊判の和紙の大きさを無駄なく使う計算の仕方や、みみを活かした張り方など教えています。
白い和紙も好きですが、アクセント的にベンガラや藍の紙を張って空間に高級感を出したり、アートのような雰囲気も出せます。私が現代建築を作るとしたら、もちろんビニールクロスは使わないと思いますが、重ね張りをするような使い方でなく、ぴっちりとした直線的な処理の和紙を使うでしょうね。
現代建築を作っても今は殆ど自然素材で作ることはできます。コンクリートやガラスでできた冷たい空間に、和紙を使うことで、日本人のDNAに刻み込まれているほっと安らぐ感覚を作ることができます。襖は特殊な技術がいりますが、壁や天井でしたら、そんなに特殊な技術がいらないので、もっと使うことができるはずです。また、他の伝統素材、例えば畳より和紙の方がずっとプロモーションしやすいですね。畳の生活は現代のラフスタイルに合わない家があってちょっと・・という家でも、和紙の天井や壁はそんなに影響ないですから。
(中略)

天井と壁に和紙を使用した室内
●建築に和紙を使ってもらうには
一番重要なのは、先程も言いましたがお客さんに、和紙を始めとする日本の自然素材のものがどんなにいいかをまず知ってもらうことだと思います。
工務店は、扱いが簡単な新建材やクロスを好んで和紙をどうしても使いたがりませんが、お客さんがいい、これを使ってくれと言えば使うようになると思います。設計屋さんも教えることができると思いますが、営業の人が一般の人に教える方策を考えてみるのもいいでしょう。
例えば京都なら、あるコミュニティ向けに見学会やワークショップのようなものを開いてみせるとか、グラスルーツ(草の根)的な宣伝でもいいですよね。竹炭などの炭の効用はだいぶ一般に浸透しましたでしょう。そのような方法でビニールクロスから和紙に変えさせる戦略を環境団体などと組み立ててみたらどうでしょう。
それと土地より知恵の詰まった家の方に価値があるのだという基本的な「建物感」を変えることでしょうね。日本では価値があるのは土地だけですから。そうでないといつまでもスクラップアンドビルドで建築廃棄物も多く、その面では日本は遅れています。
■取り組み紹介
■京都府伝統工芸専門学校 京都府南丹町 国内初の「和紙工芸科」新設
京都伝統工芸専門学校(通称Traditional Arts School of Kyoto)は、1995年に経済産業省の支援の元、第三セクター方式で京都府園部町に伝統工芸の後継者育成のために設立され、今年12年目を迎える。
いわゆるカルチャースクールのように趣味として工芸を教えるのではなく、伝統工芸の本場・京都圏で活躍するプロが実習を通じて指導する職人の養成学校である。一学年500人という学生の出身地は北海道から沖縄まで18〜60歳と幅広いが、職人さんの二世は少ない。昨年までの陶芸、仏像彫刻、蒔絵、木工芸、金属工芸、漆工芸、竹工芸、石工芸、京人形の科に加えて、平成18年度から「和紙工芸科」が新設された。(中略)
和紙工芸科主任講師の黒谷和紙協同組合理事長、福田清さんにこの学科への思いを伺う。

黒谷和紙協同組合理事長
福田清さん
●「和紙工芸科」誕生のいきさつ
全国和紙連合会等の会合で、和紙技術を教え、後継者を育てる学校がどこかに欲しいという話は、随分以前からあったのです。黒谷の和紙は戦後からずっと60年ほど、農協の中の一事業部で、黒谷和紙協同組合として独立したのは十年前です。平成8年に法人化し「黒谷和紙協同組合」を作りました。それまでにも細々とではありますが、毎年研修生を受け入れて二年間の技術研修制度を行なっていました。
その後、きちんとした後継者育成事業を市に相談していたところ、廃校になる小学校があるので、黒谷和紙で利用してくれないかと一昨年話があったのです。たまたま綾部市長とTASKの理事長が視察旅行でご一緒になり、にわかに「和紙工芸科」の話が進みました。(中略)


小学校をそのまま利用した
「和紙工芸科」研修センター
●学生、講師と一緒に勉強しよう
本年度初めて生徒募集をし、6人の生徒さんが学び始めたところです。出身地は、埼玉、鹿児島、大阪、千葉、京都で、他の科を終え移ってきた人もいます。
若い講師2人は、紙漉の基礎を、より専門的な技術は私が自ら教えます。いわゆる講義は、私の担当で、本校舎で他の科の生徒さんと合同で行ないます。1500年昔からの和紙の歴史、文化、現在の課題、京都らしさ、京都ブランドとは何か?デザイナーや問屋さんと和紙産業や文化について研究し合う態度の重要性などを話しています。
私達の若い頃は、紙を漉くだけで、この紙がどこへ行くのか、何に使われるのかわからない状態で紙をひたすら漉いていました。今の生徒さんには自分の将来の青写真を描きながら学んで下さいと言っています。和紙の技術屋になるのか、店を構えるのか、紙屋を商いながら体験コーナー等もやるのか、外国へ行くのか、作家になるのか、とにかく二年間の内に自分で決めて下さいと。紙を作った以上は売れなければなりませんし、伝統産業の現状は厳しいですね。
お客さんを引きつけるような魅力のあるものを出していくことが大切で、和紙だけでなく、竹や木との組み合わせなども学校で学べるわけですから、他業種交流的な事も大いに挑戦しなさいと言ってあります。といっても何しろ講師も初めての経験ですから、お互いに試行錯誤しながら一緒に考えていきましょうという姿勢が基本ですかね。(後略)

発行人:福井県和紙工業協同組合 長田昌久
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